先日、私にとって思い出深い大切な方がお亡くなりになりました。 

3年前初めて、外来化学療法を週1回受け抗がん剤を在宅でもポンプに入れて帰宅し、自己抜去されていた患者さんに訪問看護にお伺いしました。私は初めての経験で、化学療法の管理や副作用対策を一生懸命勉強し、ご本人の自宅での生活を支えました。

当初は、病院に何回か一緒に行き、外科の主治医の先生とお話したり、化学療法認定看護師さんとも連携したり、本人の生きていきたいという思いに寄り添って1週間に一度の治療を継続できるように訪問看護で応援しました。

 化学療法を外来で受けている患者さんは増加傾向にあり、副作用の自己管理を自宅でなさっている患者さんが多くおられます。

その患者さんの共通した悩みは、一見元気そうに見えたり、長期にわたる治療なので、家族にその苦悩が伝わりにくいことがあります。

孤独に、抗がん剤の治療を必死に受けている患者さんは多いと思います。一昔前は、入院して、吐き気や頭痛、食欲不振をケアで調整していたのですが、今は抗がん剤も改善され自宅でできるということで、患者さんは試行錯誤して自宅で自己コントロールされています。

私は、この患者さんとともに病院と向き合い、また自宅での療養での苦悩を知れば知るほど、病院での短時間の診察の場面では、患者さんのこの苦悩は伝わらず、QOL(生活の質)を高め延命することが目的の治療のはずなのに、患者さんの生活を苦しめていることがあることを知りました。

そして、危機感を覚えました。

もっと、この事態を明確にしなければ、今後、地域にはこのような患者さんが多くなり、へとへとでボロボロになって、化学療法を終了し、心も体も苦悩のなかで最後を迎える方が増えるのではないか、と考えました。

それで、私は、大学院へ行って、このテーマで研究をしたのです。

そのきっかけをいただいた患者さんが、お亡くなりになったのです。

お庭の草花の手入れが大好きで、自然をこよなく愛され、また動物も大切にされ、笑顔を素敵なやさしい方でした。

この3年間の患者さんの思いをずっと聞くことができたので、お話ができなくなった時も、何がほしいか、何を見つめたいか、とてもよくわかりました。

この3年間のなかで、私自身、がんの転移が分かった時も、患者さんと同様のショックを感じ、どうしたら、生命力を最大限引き出せるのか、人の体の仕組みを再度勉強しなおしました。

私は、大学院に入学と同時に担当を譲りましたが、テーマでもあったことで、ずっとこの患者さんのことを考えていたように思います。

働きながらの研究だったので、様子を聞いてたまに訪問をしていました。

最後の1カ月は私もお伺いし、全身の痛みを緩和するためにベッド上でお風呂に入れるケアを息子さんと一緒にしたりしました。

亡くなる二日前、ふと、庭を見るとお花が咲いていました。以前、患者さんが私に、「この花はとても大好きなのよ。なぜかというと、しだれていて、下を向いて生きることにとても謙虚な感じなのに、強い風が吹いてもこの庭で一番強い。つらい時、いつも見るのよ」とおっしゃっていたあの花が咲いていました。

寒い北風に揺れていました。

私は無意識に、庭に出てその花を「ごめんね。力をかしてね」と言いながら少し、切らせていただいて、患者さんの目線の先に活けました。

呼びかけた時、患者さんがその花を見られ、もうろうとした意識ではありましたが、私と目が合いました。

私は、この花を患者さんに見ていただけたこと、そのケアができた時に、「早い時期からの訪問看護のかかわりの重要性」の言葉の本当の意味を心の深いところで知ることができました。

そして、私は、これから自信をもってこのことを私の言葉で伝えていけると思いました。

 もう、あの笑顔に会えないかと思うとさびしくて涙が止まりません。

きっと私も、あのかわいらしく下を向いた花を見るたび、患者さんが励まされたように私も勇気をもらうのだろうな、と思います。

本当にありがとうございます。

私がいずれ来るべきときに逝き、患者さんと再開した時、教えていただいた看護の課題を私ができるすべてのことを行い、果たせたことを報告できるようにしたいと思いました。

しばしのお別れです。合掌。