ある乳がんの患者さんで、診断された時はもう転移もしていたかたがいました。手はぱんぱんで触るとパチンとはじけるような手だったそうです。

病院の医師はこの手は治らず、赤黒くなり、カチカチになり、像の皮膚のようになりますと、説明したそうです。その手のことより、抗がん剤の治療が大切と説明されました。

服もきれずつらい治療が始まりました。長い入院のあと、

予後が半年以内ということで、退院され、私たち訪問看護が開始となりました。

処置があったので、毎日訪問看護が入りました。退院して、数日して、この手を何も対策しないのが不思議でしたので、基本的な知識にてらしあわせ、リスクはもちろん考慮したうえで、弾性包帯での処置を試みました。

すると、2週間もすると、細くなり、服がきれて、スリーブに変えることができました。

その時の本人の気持ちは、単に手が細くなっただけではなく、動きたい、という生きる気持ちが芽生えたとおっしゃいました。

しかし、その半年後、がんとは違う理由で、再入院することになりました。

細かく、リンパマッサージの手順のサマリーを担当訪問看護師は書き、病院の看護師に伝えました。しかし、病院の看護師からは、手術後のリンパ浮腫ではないし、そのマッサージをすることで、がんが転移することがあるかもしれない、病院では責任がとれないので、できませんということでした。

でも、患者自身がリンパマッサージするのはいい、と本を渡し自分でやるように説明されました。でも、それは、両手でマッサージをする写真入りの本でした。患者さんは、「どうやって、やれというのでしょう、私が、仮に、転移したからといって、マッサージをしてくれた看護師や病院を訴えるはずがない、ただ、また、手が悪化したくないだけ」と悲しそうに話されました。

 

また、以前患者さんが緩和ケア病棟に入院されました。

子宮がんで、下肢はパンパンでした。身の置き所のないリンパ浮腫のつらさに、家族から相談を受けました。ここでも、私は、なぜ、ターミナル期にある患者さんのそのつらい足に手をやる看護師がいないのか不思議でした。

個人で研修はうけたけど、自信がありませんと言われたそうです。

もちろん、リンパマッサージは他のケアと同様、禁忌もあるし、注意しなければならないこと、手技も一定持たなければなりません。でも、看護師の国家資格でできて、責任を負えるはずの範囲です。

責任がとれないから、患者が最も苦痛であるその身体症状に、ケアを行えないというのは、不思議です。

もし、看護師がその責任を放棄してしまうと、結局なんの知識もない、家族がマッサージするのです。

愛する家族にとって本人が辛いところを一生懸命とろうとして、さすろうとされるのは、当然です。

この二つの病院は、それぞれちがうがん専門病院の中のことです。

私は、まだ、自分で整理できていないことですが、患者さんの苦痛を目の前にして、どうしても責任を負いながら、一生懸命技術や知識を努力したうえで、ケアしなければならないことがあると思います。

みなさんはどう思いますか。