葉っぱ葉っぱ

訪問看護に支えられた最期 ~家で迎えた静かな旅立ち~

水彩水彩

桜の蕾が程よく膨らみ、まもなく開花の時を迎える令和6年春、3月。

 何年ぶりだろう、優に15年は超えるであろう年月を経て、再び彼女は我が家にやってきた。以前と違うのは彼女が〝元嫁〟であり、そして、余命いくばくもないことだった。

 一度は癌の摘出手術を受けたものの、再発・転移が見つかったのが約2年前。以来闘病を続けてきたが、やはり50代と若いこともあって癌の進行が速く、前年の年末には入院先の先生から「脳にまで転移しています」と告げられた。

 年が明け毎日のように彼女を見舞う娘たちから、2月のある日、驚きの提案が上がった。
「家でママを見よう」
「は?無理無理。無理だって」
「基本、私が面倒見る。パパは時々手伝ってくれれば。訪問看護もお願いするし」

 実際はここに書き切れないほどの議論があったのだが、一緒に暮らしている長女の強い言葉に、僕も最後は折れざるを得なかった。そしてこの「訪問看護」が実に大きな存在となったのだ。

 病院から我が家へ運ばれた彼女は、長女が手配した簡易ベッドに寝かされ、やがて訪問看護の方がやってきた。後から聞いた話だが、もうほとんど喋ることのなかった元嫁が、体の清拭など自分の世話をしてくれる看護師さんに「ありがとうございます」とお礼を言ったらしい。

 翌朝、彼女の容体が急変する。訪問看護師さんも急いで駆けつけてくれたが、まだだ。まだ家の遠い二女がこっちに向かってる。
「頑張れ、もうすぐ来るから。頑張れ!」

 僕が声を掛けるが、彼女の呼吸は徐々に弱くなっていく。その時。
「脳が、休まれようとしています」

 看護師さんがそう仰った。

 そうか。今までずっと頑張ってきたんだもんな。もう休んでいいんだ。頑張らなくていいんだ。その言葉が全てを楽にしてくれた、そんな気がした。

 元夫と娘に見守られながら、彼女は静かに旅立った。、寄り添っていただいた看護師さんには大いに感謝したいが、「そんなことまで」と驚いたのはここからだ。

 やがて到着した主治医の先生と医療的な手続きを済ますと、看護師さんは元嫁のところへ戻り、その体を丁寧に拭き始めたのだ。全身を清め、洗髪をし、メイクまで……。

 そこには、今にも出掛けそうな綺麗なメイクをした、素敵な彼女がいた。

 医療面だけではなく、精神的な面も、訪問看護師さんには本当に助けていただいた。心から感謝を申し上げたい。

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